〜煙の実態〜

ようやく鈴恵が口を開いた。
「そうゆう事!?」
表情は蒼白から鬼のような真紅に変わっていた。
「え?」
「どうも、素直にアンケートに付き合うと思ったら、他の女性に目移りしていたなんてね!!」
鈴恵の眼は男を酷く軽蔑していた。
「いや…!最初はそうだけど…!そんなつもりじゃ…。」
良太にも身体中から一気に血の気が引いてゆく過程が分かった。
「そう!良かったじゃない!こんな綺麗な人とHが出来て!!」
そう言い捨てると、室内にピシャリ!とけたたましい音が鳴り響いた。
鈴恵の平手が強烈に良太の頬を打ったのだ。
「さようなら!最っっっ低!!」
煮えたぎった表情を残し鈴恵は自分一人、スタスタと去っていった。
良太は何もできなかった。
下半身を出したまま、惨めに呆然としていた。
それを余所目に、あけみは床に落ちたパンティを履き、上まで上げた。
T字の布が下から彼女の股底をみっちりと締めると、女の前堤に綺麗な帆を張った。
そしてミニスカートを下ろし、綺麗に整えたのだ。
それが終わると、タンクトップの捲れを直した。
「安心しなさい!ここの料金は経費で落とせるから!」
そう言いながら、あけみは伝票を手にした。
「何で…。どうゆうつもりなんですか?」
良太の胸中は涙も出ないくらいめちゃくちゃになっていた。
「自業自得でしょ?」
あけみはサラリと言い、微笑した。

それから数日が過ぎた。
田村企画のドアをノックする音が鳴り、老婆がそれを開くと、一人の女性が立っていた。
老婆は彼女を見るや、一週間前の客人だとわかった。
「あ、どうもお世話になりました。」
女性は鬱蒼とした空気を微塵も感じさせない晴れ晴れとした表情を帽子とマスクの間から覗かせた。
それを受け、老婆はニコリと微笑んだのだ。
「良太が…いえ…!彼が私の所に戻ってきたんです!」
応接間に通された彼女は開口一番に、以前交際していた彼の話を始めた。
「一時は、カっとなって、逆上して勢いで別れてしまったんですけど…。どうしても諦めがつかなくて、こちらにお願いに上がったんですけど…!こうも早く願いが叶うなんて夢みたいです…!」
老婆はただただその女性の話を笑顔で聞いていた。
「それは、良うございました。」
しばらく話した後、彼女は満面の笑みで残りの報酬を払って帰って行った。
帰り際でも話が尽きる事はなかった。
「彼をもう二度と手放す気なんてありません!ずっと一緒です!」
恋人への束縛の強い性格の主なのだろうか?
そう明言していた。

彼女が出て行くと入れ替えるように、今度は事務所の奥のドアが開いた。
「ふぁ〜…。」
あけみが寝ぼけ眼で起きてきたのだ。
「一体何時だと思っているんだい?」
老婆は客人へ出した湯呑を片しながら、少し苦笑した。
「いいじゃない!今日は依頼が入ってない日だし!」
あけみは煙草を取り出すと、火を付けた。
「あ〜!一日に三発はキツイわ!25歳って、もう歳なのかしら…!」
あけみにとっては一日の依頼が重なる事もしばしばあり、それに不満を漏らしているのだ。
昨日の依頼も、午前の昼前と午後の3時帯・そして夜と三つの仕事をこなした。
「今日は彼氏とデートの日でしょ?急がなくていいの?」
老婆は洗い物をしながら声だけを寄越してきた。
「ん?いいの!…なんだかな〜!ちょっと前に別れちゃったから!」
あけみは溜息の変わりに煙を吐いた。
「この仕事がバレてさ、男のくせに嫉妬してんの!“他の男とSEXして恥ずかしくないのかって!”減る物じゃあるまいし!…ふぅー!馬鹿!!」
「煙たいわ!事務所で煙草は止めてちょうだい!臭いが付いちゃうでしょ!?」
老婆は怪訝な顔をしたが、あけみは「一本くらい平気よ!」と、相手にしなかった。
吐かれた煙はゆらゆらと立ち上がり、やがて中空の色に滲むように消えてなくなってゆく。
「誰々とSEXしたとか、何人とヤッタとかどうでもいい事ばかりじゃない!男ってホント馬鹿!」
あけみは、また煙を吐いた。
それもやがて部屋の景色の中に溶けてなくなっていった。


完。

                                                                     

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