〜雑誌の中のピュア〜



「今、仕事忙しいでしょ!?」
「そうですねぇ!昼間は学校行ってるんで…。移動中に宿題とか…。」
テレビの深夜番組である。
画面の中で、今人気急上昇中のアイドルが、タレント達と並び、トークに勤しんでいた。
綺麗な透白の肌にロングヘアの黒い絹糸が、17歳の少女を時折、大人に映し、笑うと、二重瞼が印象的で、口元から覗ける八重歯が、彼女を可愛らしくも魅せた。
屈託のない笑顔は見る者の心労を洗い流すようであった。
彼女の名前は、YUKI(ゆうき)。
某化粧品会社のCMで、人気に火が着き、今、テレビで彼女を見ない日はないといった具合に注目を浴びていた。
雑誌を開くと、YUKIのグラビアが、埋め尽くされる。
室内でシーツに絡まりながら、笑顔を見せたり、あるいは、海岸を素足で散歩していたりした。
そのどれもが、水着を纏うセクシーショットであった。
細く引き締まった身体に、Fカップのデカメロン2つが際立つ。
彼女のトレードマークである、純白を基調とした水着が、女体に這うように、悩ましく身体を締め付けていた。
また、別の雑誌に目を転じれば、太陽の降り注ぐ中で、公園のシーソーに座り、やはり真っ白を纏う。
体格に対し少し小さめの水着が、柔丘の頂きを覆いながらも、縁からは惜しげもなく肉を零していた。
いわゆる、横乳である。
傍らには、彼女のキャッチコピーが並ぶ。
永遠の純白∞ピュア&ハの雑誌には、永遠の処女≠ニ、彼女の純真を語る。
それらキャッチコピーが、彼女の芸能界に於いてのイメージを示していた。
YUKIが、初めてグラビアに載った雑誌には、貴重なインタビューが掲載されていた。
「今、高校二年生です。
…―え?学校ですか?仕事を理由に休んだ事なんて一度もないんです。
…―大変ですけど、息抜きは上手な方かな!?
…―そんなぁ…!彼氏がいるとかありませんよ。
…―いませんから!(きっぱり)なんて言うか…学校が男女交際禁止なので、今まで彼氏が出来た事ありません。」
幾つもの雑誌の見開きに彼女微笑んでいた。
その、彼女にまつわる全てを、亮(りょう)は自分の部屋に並べあげていた。


九月。
バスケットのコート上にボールが放物線を描き、リングに沈んだ。
スコアボードに2点が追加される。
○○高校のグラウンドに黄色い声援が送られていた。
樋山 亮(ひやま りょう)
高校二年 17歳。
彼は、バスケット部のエースを背負っていた。
端正な顔だちに、切れ長の目が凛々しく、女子からの人気も絶大であった。
試合が終わった亮はユニホームの裾で、顎に滴る汗を拭った。
放課後、校内の注目を一人占めした男は、女子からのプレゼントを数点が差し出される。
スポーツドリンクや、サンドイッチといった手造りの軽食を受け取った。
「ありがとう。」
そう女の子達に礼を言い、亮は、教室に戻っていった。
教室のドアを入ろうとしたその時、中から飛び出てきた女子と、危うくぶつかる所であった。
「きゃっ!!」
彼女は何か急いでいた。
「おっと、ごめん!」
亮は身を避け、女子を通し、やりすごした。
教室に入りながら、廊下の向こうへいく女子を一瞥した。
同じクラスにいる女子であり、彼女が”YUKI”である。
いや、YUKIとは芸名で、正確には、本名、翠 有紀(みどり ゆうき)。
テレビ画面でみる、キュートな素顔はそのままに、今、彼女は普通のいち高校生である。
プリーツの揺れる、その制服の後ろ姿が廊下の向こうへと小さく消えていった。
放課後といえど、まだ時間はそう遅くなく、4割程の生徒が何かしらの理由で教室には残っていた。
亮は女子から受け取った土産物を自身の机の上にドサリと置いた。
席に着くと、ふと、隣の机が目に入った。
実は、偶然であるが、亮の隣の席が、有紀の席であり、一ヶ月前の席替えで、こうなったのだった。
彼女の机上に一欠けらの消しゴムの消しカスを見つけた。
亮の目が光る。
長さ5mm程のカスは白色と灰色の混じった変哲のない姿をしていたが、彼は周りの目を盗み、それを手に取った。
有紀の机上にあったという事であれば、彼女の使用した消しゴムのカスに違いないのだ。
亮はポケットからハンカチを出し、大事そうにそれを包んでしまった。
また一つ、コレクションが増え、胸の空白が埋まる。
幾つものプレゼントや、女子の熱視線を浴びようとも、一輪の花に奪われた亮の心は満たされる事はなかった。
他の女子とは違い、亮に気を持つ素振りも見せない有紀に、逆に亮が熱をあげ、有紀に想いを寄せていた。
亮の中で彼女ほど、純白≠ェ輝かしく見える花はなかった。
彼女の黒髪がそれを物語る。
その、近くて遠い存在が、いつも、男の心の隙間を埋め尽くしていた。


次のページ



                                                                     
     もくじ(3)