〜メカニズム〜

自宅に帰ると、普段着に着替え、食事を済ませた。
その後、借りてきたDVDを見ながら、テレビの前で、電子部品を広げていた。
趣味である電子部品の組み立てである。
それは、眼鏡のフレームにディスプレイを埋め込み、ONの時はテレビを視聴でき、OFFの時は、普通に眼鏡として使用できるモノを自作で作り上げている最中であった。
眼鏡型のディスプレイは、市販されているが、眼鏡として見ると、どうにもデザイン性に劣り、しかも映像を見る事のみの機能しかないのが不満であった。
智光自身、近視の為、普段から眼鏡を着用しているが、どうせなら機能にもデザインにも優れた物が欲しいと感じていた。
そうすれば、仕事の空き時間などでも、大好きなDVDを観賞できる利点もあるのだ。
約半年かけて、製作していた眼鏡はもうすぐ完成を迎えようとしていた。
すると、映画の中で、興味深い件が智光の耳に引っ掛かった。
人間の脳神経細胞を電気信号が伝わるメカニズムの事であった。
基本的にはNa(ナトリウム)イオンが細胞に取り込まれると、電位が崩れ(スパイク)と呼ばれる現象が起きる。その電位の崩れが隣の細胞に影響してまたNaのやり取りが生じ、それを繰り返していくとスパイクが波のように神経細胞を伝わって行くというものだった。
この現象は、電化製品など全ての電気機器が電気で動く仕組みと同じであった。
「へー…!人間の体内も、テレビや冷蔵庫と同じかもしれないなぁ…。」
智光は、関心し、手を止め、その話に見入ってしまった。
すると、桐生部長の持っているであろう書類を見つけ出す方法がぼんやりと頭の中に浮かんできた。
「そうか…!そういう方法ってないわけじゃないよな!土日は休みだし、頑張って仕上げてみるか!」
彼の部屋には、昼夜問わず、灯りの点く日が二日続いた。

翌週の月曜日。
智光は新しく出来た眼鏡をして出社した。
「わけのわからない能力がこんなふうに役立つなんて思ってもみなかったな…。」
智光は生まれ持った能力と、完成した眼鏡を誇らしく感じた。
アイデアの着想を得たのは、先週金曜日に見た映画にある。
人間の脳神経細胞は電気が流れる事で、働いているとの事だった。
すると、こういった仮説が成り立つのである。
“他人の脳内の情報が流れ込んでくる智光からすれば、逆にこちらから相手の記憶情報の中へ入り込めるのではないのだろうか?”
テレビの端子の様に、普通の人間は外部の機械と結びつく契機がない為、見る・触る・聞く・臭う・食べるなどしか手段がないが、智光の場合、その限りではない。
いわゆる第六感が飛びぬけて働くのだ。
(なんだか、他人のコンピューターに侵入するハッカーみたいで、気分がいい!)
己だけ持ち合わせた能力に優越感を感じた。
しかし、事態は予想外の方向へと傾き、智光の期待は空振りに終わったのだ。
朝礼の時、桐生部長の姿が見えなかった。
すると、代理として四音寺主任がみなの前に立ち、桐生部長が土曜日に倒れ、入院した旨を伝えた。
つまり、桐生部長へ手渡したはずの書類の行方は有耶無耶なまま終わってしまったのだ。
智光は落胆した。


「高島君、君どこのチームにも編成されていなかったわね?」
朝礼の直後に四音寺主任から声がかかった。
四音寺若菜(しおんじわかな) 28歳。
企画・マーケティング部の若手出世頭である。
女性ながら、手早くかつ丁寧な仕事が上役の連中から評価され、28歳にして主任のイスを与えられたやり手のキャリアウーマンでなのだ。
その彼女が赤縁の眼鏡の向こうから智光の表情を窺った。
「え…?はい。」
智光の返答を受けると、四音寺は頷いた。
「よかった。手の空いているフリーな人間を探していたの。今回、私の持つプロジェクトの助手が欲しかったの。」
仕事のできる人間はすぐに、どこかしらのチームに組み込まれてしまう。
それから考えると、今、フリーの智光はお世辞にも褒められた状況ではないのだ。
それを知ってか、四音寺主任が声をかけた。
「…それを僕にですか?光栄です。…でもそんな重大な仕事、僕にできますかね?」
すると、彼女は多少驚いた表情を浮かべた。
「あはは…!勘違いしないでぇ!君のようなお荷物クンに重大な仕事を渡すわけないじゃない!そういう人、君を含めて数人いるの!それだけ忙しいって事!アルバイトでもできる仕事だから心配しないで!集合は10時に第二会議室。遅れないで!」
そこまで言うと、絹艶のロングヘアを翻し、デスクへ去っていった。
(そういう事だったのか。)
智光は肩を落とした。


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