「ふーッ!こんな時間か…。」
里崎が帰宅したのは、深夜だった。
先日、行った国語のテストの採点のため、残業をし、遅くなったのだ。
キーを取り出し、ドアを開くと、途端に緊張が解ける。
すると、片山愛とのセックスの感触が、明瞭に蘇るのだ。
「今日は頑張り過ぎたかな?身体がだるいなぁ…。」
里崎は軽い眩暈を覚えながら、普段着へと着替えた。
妙に熱っぽい。
軽い夕食を摂ると、布団に倒れ込んだ。
「片山のやつ…、今日は一段とオレ好みに化けてやがった。」
里崎は以前から、愛の容姿に惚れこんでいた。
気品のある顔立ち。
小学生ながら、将来、美しくなると断言できる素質を持っているのだ。
その彼女が、まるで16・7歳の肉体で目の前に現れたのだ。
犯さぬ方が不自然であろう。
これが里崎の価値観であった。
「さて…明日はどうやって楽しんでやろうか…。みんなの前で公開性教育と銘打って授業しても面白いかな!?」
里崎はぬふふ…と笑みを浮かべ、意識は心地よく沈んでいった。
翌朝、目覚めた愛は、妙にスッキリとした感覚であった。
昨日、悲劇を被った事を思えば、とてもベッドから起き上がれる状態でない。
しかし、身体はまるで、台風一過の晴天のような清涼感がみなぎった。
床に足を下ろすと、なんと、愛の視界は一昨日と同じ景色ではないか。
「あれ?」
即ち、身長が元に戻ったのだ。
昨日の事が夢のようである。
歩いても、股間の痛みすら無いのだ。
「ゆ…夢…?」
自分の身体が成長した事も、今日学校を休むように母親に電話したのも、全ては夢の中での出来事だったのかとも思った。
腑に落ちないが、しかし、夢ならば、今日も学校に行かなければならない。
「どっちなんだろう?とりあえず、急がなくっちゃ!」
愛は弥栄子に会いたくなった。
そして、結局、いつも通りの時間に家を出た。
しかし、登校中、出会った弥栄子が血相を変えたのだ。
「愛!どうしたの!?」
「…え?」
「だって、今日休むって言ってたじゃない!昨日里崎に…。」
そこまで言うと、弥栄子は今にも泣きそうになる。
しかし、愛は友人をなだめたのだ。
「大丈夫よ!ほら、見てみて…、私、いつもの姿になってる…。」
それを言うと、弥栄子も目を丸くした。
「そう言われれば…。」
夢でも見ていたのだろうか。
愛は弥栄子の表情を見、きっと自分と同じ事を感じていると悟った。
すると、なんだか笑いが溢れてくるのだ。
それを受け、弥栄子も笑った。
一体、何だったのだろう?
「愛、体は大丈夫なのね?」
弥栄子がもう一度聞いた。
それに愛は大きく頷いたのだ。
教室に入ると、クラス全員の目が愛に向いた。
その元通りになった姿を見て、誰しも同じ表情をするのだ。
「なんだか、可笑しいね!」
愛と弥栄子は二人で笑った。
(里崎はどんな反応をするのだろう?)
普段通りの朝を迎え、安堵した感はあるが、しかし、昨日の事を思えば、里崎の顔は見たくなかった。
チャイムが鳴ると、愛の期待に沿い、教室に入ってきた先生は、里崎ではなかった。
隣のクラス、3年3組の大井先生だった。
「みなさん!」
大井は語調を改めた。
「急な話ですが、里崎先生が、今朝、入院されました。」
クラスがどよめく。
「今、学校の方に連絡が入ったばかりで、容体も定かではありません。救急車で市内のS病院へ運ばれたそうです。」
その里崎の状況を伝える話は5分ほどで終わった。
担任不在となった、その日丸一日、自習であった。
「先生、どうしちゃったんだろう?」
心配そうな顔をする愛を弥栄子は嗜めた。
「罰よ、罰!昨日、あんな事するから神様が雷を落としたのよ!」
そう言いながら、いい気味だと弥栄子は笑った。
しかし、それから里崎の姿を見る事は卒業までなかった。
風の便りには、下半身が動かなくなったとか、あるいは、冗談の好きな男子は「チンチンが柿みたいに取れて落ちちゃったらしい!」などと言って、ケラケラと笑う。
しかし、真相はわからずじまいであった。
「結局何だったんだろう?」
あの日、一日の出来事は、まるで自分の体験した事ではない、別の誰かからの見聞のような気すらしてくる。
4年に上がる頃には、愛の記憶からは里崎の行為、あの日の悪夢の存在すら消えてなくなっていった。
完。