〜甲賀の主〜

(さっき浜で締め上げた男だわ…!)
瞳に眉間には、シワが寄っていた。
「ああ、気分が悪い!祥子、何してんのよ…!のぼせちゃいそうだわ!」
擦りガラス向こうの脱衣所を見ても人の影すらない。
「いや、祥子ちゃんは当分、帰って来ないさ!」
すると、いつの間にか瞳の隣に人が入っていたのだろうか、横で声がした。
瞳は「えッ!?」と驚き、その方を見た。
男の声だったのだ。
そこには、先ほど車のトラブルを直してくれた色黒の男が入浴していた。
「ちょ…あ、いや…ええ?…あ、あなた…!」
瞳は目を白黒させた。
ここは女湯なのだ。
古賀と名乗る男も、さも当然と言わんばかりに、湯に浸っている。
すると、男は湯の中から手を上げ、キーを見せた。
「ほら、ここに探しものがあるから、見つけられない!」
男はニコッ!と笑った。
瞳はくつろげ、伸ばしていた手足を縮めた。
脚を体育座りのように折りたたみ、両手は乳房を覆い、視線をガードする。
まるで体の芯が凍えたような感覚が全身を支配した。
「ああ、それから本部に問い合わせていた例の件、彼らには詳細は掴めないでしょう!もっとも、私が出向いたという事は、自分で説明する予定でしたけどねェ…!」
瞳は何かを悟ったような、怯えた表情になった。
「古賀晴久…。古賀=甲賀・晴久=ハルク…。」
男は途端に鬼のような険しい顔つきに変った。
「甲賀の主が直々に赴いたのだ!」
「ひッ!」
瞳は悲鳴をあげた。
「甲賀の復讐、最終章だ!嘆き!悲しみ!恥辱の果てに犯してオレもモノになるがいい!伊賀の相伝はここで潰(つい)えるのだ!このハルクが終止符となってなぁ…!」

湯に浸かったまま、瞳は身構えた。
(攻撃を受ける前に防御しなければ…!)
それにも増し、今、己が一糸まとわぬ姿である事が不利の極みであった。
(変に動くと一気に敗勢、つまり犯されてしまう!)
ゆえ、戦い方が限定されるのだ。
すると、一瞬、瞳の身体が浮いた。
湯の浮力かと見紛ったが、それではない。
ハルクを名乗る男の手が、瞳の片脚の膝裏を掴み、持ち上げんとするのだ。
「きゃッ!」
瞳は湯へ後頭部から倒れそうになりながら、しかし、懸命にバランスをとった。
片手は乳房を覆いながらも、もう片手で後方を支え、膝を捻ると、湯の潤滑が加担し、男の手から足が抜けた。
男が追撃の掌握を走らせるが、つま先を掠るだけで幸運にも届かなかった。
「今だ!」
瞳は尻を滑らせながら、男と間合いを取り、浴槽の縁へ背を付けた。
すると、背を反りながら、身を転じ、浴槽の外へ逃れた。
その際、膝を折り、両腿を付け合わせるように閉じ、秘部が見えないよう努めた。
2・3回転すると、即座に起き上がり、男へ向き直り、床へ片膝をついた格好で構えた。
「ぬはは…!膝を斜めにして立てる事で、股間を隠すとは…!今まで、それなりに恥辱の修羅場をくぐってきたというわけか!」
ハルクは湯から立ち上がった。
小麦色した肉体を湯が流れ落ち、股間にそびえる肉の怒張が姿を現した。
それを目の当たりにした瞬間、瞳は慄いた。
太さは女性の手首ほどあろうか。
それだけではない。
コブラの形をした頭は一回り大きく、まさに肉の大槍といったふうであった。
「か…怪物!」
それは巨根を見た処女ならではの言葉であった。
(あんなのと無理に戦う必要はないわ!)
瞳は、踵を返した。
そして、男に背を向けると、一目散に出口の扉へと向かったのだ。
隠密が逃走を図る。
揺れる乳房を右手で隠しながら抱え、走る。
惨めであるが、しかし、見事な尻が白桃のようにハルクへ向け曝された。
女からすれば、自身が裸である事と、肉槍への恐怖を含めたこその判断に他ならない。
(ひとまず、服を着ないと…!)
しかし、次の瞬間、瞳の身体が動かなくなった。
「ええ?」
瞳は、まるで金縛りにであったようであった。
「おや…逃げなくていいのかい?」
すると、男が背後からひたひたと歩いてくる。
そして瞳の前に通せんぼするような格好で立ちはだかったのだ。


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