週末、小泉柚希は、青空遊園地の案内所付近にいた。
大学の同期生達と待ち合わせの約束をして,そこに、黒淵彰が到着した。
「やあ、早いじゃない…。」
そういいながら、今回の事件の仕掛け人が、何食わぬ顔で来た。
実は、あれから黒淵は顔見知りの利を生かし、柚希を誘ったのだった。
研究室で顔を合わせた際、「友人数人と遊ぶんだけど…」と言いながら柚希を口説いていた。
その背景には、高橋がメンバーの中にいる事。
そして、明言は避けたが、高橋の推しを臭わせ、「小泉も来れないか」などと曖昧に誘ってここに至った経緯がある。
「もう時期、他の連中も来ると思うんだけど…。」
黒淵が柚希の機嫌を窺いながら、手首の時間に目を落とすと、まだ待ち合わせの時刻の10分も前であった。
だが、いくら待てど暮らせど高橋は来ないのである。
初めから彼には誘いは掛けていないので当然であった。
今回のメンバーは他は石上だけ。
ちょうど、その時ケータイが鳴り、石上から電話が掛かってきた。
予め、予定していた電話である。
「もしもし…あぁ、高橋?」
通話をしながら、黒淵は演技した。
そして、視界の片隅で、電話の内容を気にし、視線を寄越す柚希を確認していた。
「今どこ?……うん。…えぇ?――それじゃ、仕方ないな…。」
そうして、電話を切った黒淵が、
「なんでも、高橋たちが、一時間位、遅れるらしくって…。」
そう電話の内容を柚希に話してみせた。
と、その時に石上が二人に合流した。
厳密に言えば、その様に装い、全ては段取り通りであった。
「やあ…。」
挨拶もそこそこに黒淵が先程あった電話の内容を説明すると、三人の間では、観覧車にでも乗り、一時間はかりの時間を潰すと決まった。
もっとも、観覧車の乗る事を言い出したのは、黒淵なのだが。
柚希に同意を求めると、素直に頷いた。
観覧車は、遊園地の中央に座る。
白を貴重とした体は、景観も爽やかに見映え、地域のシンボルを担っていた。
その形もどことなく風変わりで、垂直方面に上る作りではなく、全体が軽く傾斜し、ゴンドラは斜めに登ってゆく作りであった。
晴れた日に、下から見上げると、純白は青空を泳ぐ雲の様にも見え、その人気は当遊園地の中でもトップ3に入る。
観覧車の入り口には、十数人の列ができ、降りてくるゴンドラに順次乗り込んでゆくのだ。
「ほら、ここに並ぶんだよ。」
三人は、列の最後尾に付いた。
黒淵と柚希が前方に並び、石上が二人を見る形で後ろに立ち三角の形。
つまり、石上は柚希の姿を斜め後ろから眺める角度を得たのだ。
今日の彼女の服装は、初夏らしく青色のキャミソールにスカートはホワイト系のミニであった。
以前見たブラウスの素材感も捨て難いが、今日のキャミも女の体の稜線にピタリと密接し、男に裸体の淫靡さを想像させ、股間に突き上げるには十分な衝動を与えるではないか。
スカートのタイトな造りは、臀部のアールを浮き立たせている。
張りと弾力を兼ねた若さが、胸から尻、そして腿に至るラインを強調して、美しいというだけで罪を感じざるをえなかった。
「ちょっと行ってくるから。」
次第に近づく順番に断りを入れ、石上は料金の支払いにカウンターに向かった。
その間、黒淵は大学の授業の事やサークルの事など、どうでもいい話で場を繋いでいたが、それは、彼女に勘付かれては不都合な事情からであった。
全ては檻に入ってしまえば、男の思うがままなのだ。
石上はカウンターで、料金を払う。
財布から取り出した金額は、三人合わせ、4万5千円。
たかだか観覧車に乗るだけでは考えらない常識を逸した金額である。
頭数で割ると一人、1万5千円の入場料がかかった。
これこそが柚希に見られては困る不都合であり、男二人はそれを自然に終えたかった。
その後、石上が何食わぬ顔で二人の所へ戻り、程なくして、自分達の乗るゴンドラが下りてきた。
係員に促され、三人は乗り込む。
四方をくり貫く窓から外が見えるが、円を描いた天井が外観以上に閉塞感を持っていた。
中には両側に二人分ずつの褐色のシートがあり、それに席に腰を下ろすと、係員にバタンと音を立ててドアが閉められた。
ゆっくりと上昇するゴンドラの中で、柚希は石上に詰め寄った。
「そうだ、石上君!先週は私の誕生日だったんだけど、忘れてない?」
今しがた、思い出したかの様に、唐突に話しかけた。
そういえば、前、柚希の誕生日にプレゼントを贈る約束をしていた。
先程まで石上に話しかけすらしなかった姿を見ると、どうやら品物だけ貢がせ、上手く手玉に取ろういうのか。
「ごめんごめん。」
石上は苦笑い、バツの悪そうに頭をかいた。
「ひどいなぁ!もしかしてホントに忘れてた?」
演技であろうか、柚希が可愛らしく眉をひそめ、責めるように石上を睨むではにか。
「そう思って、お詫びに今日はプレゼントを持ってきたんだ。」
そして次に、石上は柚希に目をつむって後ろを向いてくれと頼んだ。
恥ずかしい気持ちもあり、背後から彼女の手にプレゼントを渡したいと伝えた。
「期待してよ。けっこう、奮発したんだぜ。」
その彼の言葉に柚希も素直に応じ、後ろ向きで背面に両手を構えた。
ブランドの鞄でも思い描いているのだろう。
機嫌のよさそうな彼女の後ろ姿に目をやりながら、黒淵のポケットから銀色のプレゼントが出てきた。
ガシャガシャン!
ゴンドラの中に乾いた金属音が響き渡った。
「ええ?ちょ、ちょっと。どういう…!?」
次の瞬間には、柚希の両手首には手錠がかかっていた。
つまり、それこそが、黒淵からのプレゼントであったのだ。
「いや。何?外してよ。」
困惑しながら柚希が叫ぶ。
土井が自身のヒゲを撫でながら、冷ややかな視線でその光景を眺めていた。
窓より外に目をやりながら、上方を見上げると、自分たちの二つ前のゴンドラでも、女と中の男達が激しくもめていた。
そのゴンドラの中の女もまた複数の男に組み伏せられていて、彼らもまた目当ての女性を欲す為に、観覧車に導いた者達なのだろう。
抵抗するも、男数人の腕力に女一人では到底敵うはずもなく、観覧車の檻に囚われた「獲物」と称される女性は、ゆっくりゆっくり、空中へ昇る密室の中で剥き出しの男の欲望の餌食になる。
この観覧車は中で何が起ころうとも、遊園地側が完全に証拠隠滅してくれる。
ひとたび中に入れば完全な無法地帯であった。
そういったシステムを提供してくれる場所が青空パークであり、高額の入場料の秘密はそこにあった。
「官能小説的な一言:密室は凌辱を煽る」