翌日、青空パークのゲートは通常通り開いていた。
学生カップル、親子連れ、子供同士の憩う姿があった。
周辺は学生寮も多く、一般住宅と半々といったところか。
その住宅街を中心に対をなす位置に翠山大学がある。
背後に山地を背負い緑の中に佇んだ出で立ちは勉学に最良である。
石上健二(いしがみ けんじ)は構内の喫煙所でタバコを吹かしていた。
大学敷地内の北東にある4階建ての建物が薬学棟となり、薬学部関連の研究室、講義教室が収まってる。
その一階ロビーの端に据えられたソファーに深々と腰を下ろし膝を組んでいた。
もうじき定刻を迎え、講義が始まる。
目の前を通り過ぎる生徒の数がそれを物語る。
人の波が、建物玄関から、講義室の中へと流れていた。
その中に年頃のお嬢さんが3・4人楽しそうに会話に花を咲かせて歩く。
「ふー……。」
煙を吐きながら目を流し、石上は彼女達の後ろ姿に見とれてみる。
ミニスカートが歩調に合わせて揺れていた。
夏場は女子が薄着の為に、身体のたおやかなラインが浮いて男の股間を熱くする。
今ここにいるわけは、小泉柚希(こいずみ ゆずき)を待ち伏せる為であった。
講義室に流れ込む人の中へと目を凝らす。
女子の合間へ、ときたま男子が見える。
薬学部なる場所は男子より女子の数が圧倒的に多い。
しかも、この翠山大学は土地柄か、医者・代議士・会社役員を親に持つ女子が多く、容姿端麗のお嬢様が多く見受けられた。
それとて、小泉柚希の魔力には及ばない。
石上は根元まで吸い終えた煙草を灰皿の中で潰し、もう一本火を点けようとした。
その時、柚希の姿を見た。
女友達の川田と連れ添い、館内へ入ってきた。
肩まで伸びたセミロングの黒が降り注ぐ光を含み、微かにブラウンに染まっていた。
薄っすらアイラインの引かれた二重瞼が魅惑的で、力強い眼差しは銀幕女優の煌びやかさを彷彿させた。
周りの男子学生からは、気の強い女との評判があったが、それでも極上の気品は石上の肺腑をくすぐるものを持っていた。
初夏に相応しく白地のブラウスが涼しく見映える。
程よい胸の膨らみがぷっくらと隆起し、シルク地の滑らかな光沢に母性的な柔らかさが際立っていた。
彼女の気の強い性格とは、真逆とも取れる身体と内面のギャップななんなのだろうと、石上はいつも感じていた。
下半身を魅せる両脚は、キメ細やかでほっそりとしていながらも、腿の張りや、脹ら脛の丸みにたおやかな優しさを見た。
さらに、踊るプリーツの内側からツンと反った双臀が布地を持ち上げ、お尻の丸みを醸し出している。
まさに、頭からつま先までに於いて、他の女子より一枚秀でた気品を醸していた。
石上は立ち上がり、講義室へと向かう柚希を呼び止めた。
「やあ。柚希ちゃん!」
その声の方に彼女が、振り返ると、小汚い男が立っていた。
洗濯を重ね、よれたTシャツに、擦り切れたGパンを着ていた。
無造作に伸ばした茶髪が目一杯のお洒落のつもりだろうか。
少なくとも、柚希には、好ましくなく思えた。
その風采に眉をひそめる。
同時に振り返った川田の表情も芳しくない。
「あのさ…よかったら今度、映画にでも一緒にと思って……。」
「えぇ〜…。」
怪訝な表情のまま、少しの間があった。
「暇があったら、考えておきます。」
と、彼女はにべも無く返事をした。
そうして、男を軽くあしらい柚希は、二階の講義室へと足早にむかった。
だが、それでも、石上は期待に胸を高鳴らせた。
彼女の暇があったら≠ニ言う言葉が嬉しかった。
しかし、彼女の心は真逆であったのだ。
以前から柚希は、石上に5・6度誘われ、その度に遠巻きに断っていたが、それでもしつこく誘われるので辟易していた。
その為、濁した返事をしたのだ。
しかし、それが女にとって、最悪の事件を起こす事になろうとは。