〜家宅捜索〜



木々の隙間に垣間見える朱は影を潜め燃え上がる新緑が夏の訪れを告げていた。
都会から遠く離れた地方に、周囲を稜線に囲まれたのどかな街並みに不釣り合いな遊園地があった。
学生数1500人程の小さな4年制の大学が近くにあり、地元では唯一学生のレジャー施設(憩いの場)になっていた。
しかし、今日の園内に学生の賑わいは無かった。
地元のオアシス・青空パーク−年中無休−。
そう書かれた看板の横で遊園地のゲートは閉ざされていた。
手書きで臨時休業とだけ書かれたボードが門扉に掲げられ、それを見た来場客はみな首を傾げ引き返していた。

「青空パークの管理者遠藤克也さんですね。」
そう言うと男は手にした一枚の紙を遠藤に突き付けた。
シックグレーのスーツに身を包むその片手は捜査令状と銘打たれた印籠をかざしたのだ。
警察の家宅捜索。
遊園地敷地内の事務所には総勢20人を超える捜査官がガサ入れに踏み込んでいた。
警察に出された被害届は今年に入って20件に上っていた。
しかも、それは氷山の一角だと推測される。
容疑はすべて婦女暴行罪。
若い女性、特に20代前後を中心に被害の広がりを見せていた。
今日、事務所にいたのは、オーナー兼管理責任者の遠藤ただ一人であった。
作為か否か、年中無休の遊園地は前日に急遽休業となり、従業員の姿さえも無かった。
「いやはや、その様な事が…一体?」
遠藤は恵比寿の様な垂れた一重をますます細め、困惑を見せる。
「全くもって、私共に心当たりがありませんが。」
その視線が紙から捜査員の炯眼へと向く。
この遊園地では、過去5度、同一の容疑で家宅捜査歴がある。
その現場が、いずれも敷地内中央にある観覧車内である。
それ故、遊園地側の組織的な関与は免れない様相を呈した。
捜査員はかざした令状をスーツの内に潜めた。
彼が今捜査の責任者なのだろうか?
年は40代半ば程。白髪の混じるオールバックに目尻に中年を語るしわを走らせていた。
「事務所と、観覧車を徹底的に調べあげます。今回は覚悟して下さい。」
遠藤を睨み付ける眼差しは正義とも言うたぎりが満ちていた。
「はい…。」
遠藤が頷いた事を皮切りに半分の捜査員が事務所に雪崩れ込み、もう半分は観覧車へと繰り出した。

捜査が終わったのは、日も暮れる19時前だった。
約8時間にも及ぶ捜査員の激闘は押収品ダンボール5箱を持つ事で幕が下りた。

事務所に独り残る遠藤は、昨日より少しだけ殺風景になった景色を見て、呟いた。
「今回は意外と少なかったなぁ…。」
前回などは8箱の押収であった。
そんな事を記憶の中から手繰り寄せ、タバコに火を点けた。
窓外は山並みの向こうへと、陽が沈みかけ今日の終わりを告げていた。
一息つき、遠藤は懐からケータイを取し電話をかける。
トゥルルル…「はい」。
電話の向こうに出たのは、警察署長であった。
「あ、遠藤です。いつも、お世話になっております。」
「ああ、君か。」
署長は遠藤から電話がくる事を判っていた口調を見せた。
元々、今回の家宅捜索も予め彼から遠藤に情報が渡されていた。
それ故の臨時休業となったわけだ。
本来、令状の請求、捜査権限は警察署長が握っているのだが、いかんせん被害届の数の多さに周りの署員の目もある為、捜査せざるをえなかった。
事後報告も兼ねた挨拶が、今回もある頃だろうと読んでいたに違いない。
「今回も隠蔽処理の方をお願い申し上げたく電話させていただきました。」
「ああ、僕の方は判っているけど…。」
署長は言葉を飲み、遠藤の態度を伺った。
「はい。もちろん用意しております。今日代理の者に入金させましたので、明日にでもお確かめ下さい。」
その言葉に、声には出さないが向こうで署長が頷いた様子がわかった。
「では、また明日から私共は、営業いたしますので。」
「うむ…。」
「失礼します。」
それ以上は語らず遠藤は電話を切った。
窓外の山並みは、夜空が覆い被さって紅い光りはすでに闇に飲まれていた。


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