ジリジリと焼かれる砂浜には、波が打ち寄せていた。
ビーチに裕子は素足を下ろした。
各々、水着に着替え、日没までの2・3時間を浜辺に繰り出す事に話が決まったのだ。
雑誌に穴場スポットとして紹介されていただけあり、いくらかの海水浴客はいても混雑は見受けられなかった。
「いいところ…。これなら十分に楽しめそうだね。」
裕子は一人で頷いた。
「裕子〜・・。早いんじゃない?」
後ろから浮かれた声に掴まれた。
はしゃぎながら、香織が来る。
ペンションからビーチに下ろした石階段を子供の様に一段ずつ飛ばし、駆け下りてきた。
小麦色した全身にピチッ食い込んだビキニを纏う。
パンツのハイレグカットが鋭角を象り、サイドに走る布地が細く腰まわりを、よりスマートに見せていた。
上下共、黒を基調としたデザインでトップス(ブラジャー)の左胸や、パンツの右腰の辺りに、ピンクの大きな花絵柄が、アクセントにあしらわれていながら、全体に緑や青の涼しげな葉柄が散りばめられており華やかに魅せていた。
香織が階段を降りる度、胸元がタプン、タプン…と揺れ弾けた。
Eカップはあるだろうか、たわわに実った彼女の乳房が、水着に押し込められて盛り上がり、柔丘を誇張していた。
その魅惑の谷間が男の視線を誘うのだ。
香織が裕子の横に並ぶと、傍らを通った男性が香織の胸元に一瞥を送っていった程である。
「杏ちゃんも、もう時期、来ると思うんだけど・…。」
ペンションの方を振り返り言った。
いつも香織は健康的な笑顔を見せる。
今時な、ギャル風の容姿だが、大人びたファッションのコントラストは香織の女としての魅力を一際引き立てていた。
一目、ビーチの似合う女であった。
そう話していると、杏も二人の元にゆったりと下りてきた。
杏は、オレンジ色のビキニ。
下には、水着の上にデニムのショートパンツを履いていた。
全体的にカジュアル感が映えている。
透き通る様な肌をし、避暑地に着たお嬢様のふうがあった。
彼女のビキニも杏の胸の大きさを際立たせていた。
それが香織以上のサイズである事は一目瞭然であった。
Fカップか、あるいはGカップだ。
スタイルは中肉中背であるが故、どちらかと言えば目立たなかったが、裕子もその大きさには女としておののいた。
二人が裕子に並んだ。
その立派なスタイルに囲まれて、裕子はため息をつきたい気持ちになった。
Bカップ。
決して、誇れるわけではない自身のバストに目を落とした。
男を意識してではないが、もう少し、女として艶やかに装うべきであったか…。
藍色と、薄水色のストライプに彩られた、味気の無いビキニに少なからず後悔を抱いた。
(逆にもう少し派手目にしないと、浮いちゃうかも・…。)
そう思い、華やかな浜辺を見渡した。
しかし、その裕子の水着を見て、杏が褒めた。
「わぁー・・。裕子ちゃんの水着って爽やかな感じだねぇ。」
瞳を煌かせていた。
彼女にはそう見えるのだろうか。
たしかに、見方によっては、地味にも爽やかにも、見てとれる。
学生時分から陸上をしていた裕子のスタイルは健康的な張りを持っていた。
バストもとりたてて大きくない様は、アスリート風であり、全体的な引き締まったバランスを含めて、杏は褒めているのであろう。
裕子は無意識に二人の胸元に目をやる。
自分が女である以上、やはりそこの部分が心の片隅に引っかかった。
もちろん杏の言葉に悪気がないのはわかっている。
この娘は元々、こういった娘なのだ。
(爽やか・…か、その言葉を額面通りにありがたく頂いておこう。)
裕子は胸のわだかまりに蓋をした。
「さすが穴場。混雑してなくて、いい感じ。」
香織の言葉だった。
浜辺には、子供の姿も散見された。
近隣さんや、家族連れも見受けられ、アットホームな雰囲気があった。
もちろん男性の姿もある。
この浜辺の中からカッコイイ彼氏を見つけられれば、言うことないのだが…。
品定めをするギラギラとした、眼差しを放つ香織を杏が笑っていた。
「香織ちゃんの目、怖いよぉ…。みんな逃げちゃいそう…。」
裕子はその二人を横目で瞥見しながら、一つ申し訳無い気持ちを抱えていた。
彼女達には内緒だが、実は裕子には彼氏がいたのだ。
この旅行の計画が決まったのが、一ヶ月半前。
つい一週間前に、アルバイト先の先輩に告白され、良さそうな男性であったが為、交際が始まった。
話の成り行き上、言い出せないままに、ここまで来た経緯がある。
だから、裕子にとって今回の旅行は、香織と杏との親睦を深める為だけのものといってよいのだ。
「とりあえず、遊ばなきゃ…!」
香織は持ってきたビーチボールを出して、ポンと軽く叩いた。
「海といえば、これでしょ!」
そう二人に誘いかけた。
「えー……ベタすぎないかな?」
裕子が香織の案になんとなくケチをつけた。
先程までは、男の話であったが、こんどは一転、楽しく遊びたいらしい。
その気持ちはわからないでもないが、二つを欲張る姿勢に、内心ずるい女だと障った。
「私、海って初めてなんだ。」
香織が話す。
「そりゃ、裕子と杏は、子供の頃から何度も来ているのかもしれないけど…。」
大学の都合上、今は内陸に引っ越してきたけど、裕子は岡山の瀬戸内海に面して、そして杏は千葉の太平洋側に面した立地で育ったのだ。
子供の頃には近所の友達と放課後、浜辺に行ったものだった。
それに、引き換え、香織は東京育ちで、近場には海水浴に適した海がなかった。
彼女の両親が、開業医と、大学病院理事とあって、世間でいうところのエリートの家庭に育ったのだった。
仕事が忙しく、我が子の相手も十分にしてあげられない家庭環境であった。
「ほら、私って、お金持ちだけど、庶民的な経験って乏しいじゃない?今日は浜辺のベタ≠ノしようよ。」
言いながら、ビーチボールを差し出した姿を裕子は、腑に落ちない面持ちで眺めた。
なぜなら以前から、香織には、自尊する所見がある。
自身を都会の金持ちであるとか、エリートといった言葉で表現してくるのだ。
まるで、海辺で育った裕子の環境がみずぼらしいみたいではないか。
おまけに、集団の中でも自己主張の強いところもある。
杏は香織のそういったところを、一体どう思っているのだろうか。
裕子は杏の顔色を伺った。
「私は、ビーチボールでもいいと思うけど。」
杏がやんわりと答えた。
何も気にしていない様子であった。
結局、その一言が、決定打になり、裕子もそれに従う事にした。