「光俊(みつとし)さ〜ん!ご飯できましたよ〜!」
階下から新しく出来た母親の、息子を呼ぶ声がする。
時刻は19時。
いつも通り夕食の時間となり、ダイニングへ下りると、食卓には3人分の食事が並んでいた。
「今日は、お肉とじゃがいもが安かったから、肉じゃがにしました!」
帰宅したばかりの父親が背広から部屋着に着替え、椅子に座り、鈴江(すずえ)の透き通った声に、黙って頷いていた。
(今日で、新婚一か月か…。)
光俊は着席しながら、そんな事を思っていた。
光俊の元の母親は病弱だった為、三年前、つまり彼が14歳の時に亡くなった。
今の母親、鈴江は父の再婚相手なのだ。
51歳の夫に24歳の妻。
不釣り合いにも程がある。
(鈴江さんは、一体、親父のどこが良くて結婚したのだろう?)
三人が揃うと、光俊はいつも違和感を拭えない。
部屋着といっても、くつろげる物ではなく、カッターシャツに折り目のビシっと入ったスラックス。
父親の寝起きのだらしない姿や、酒でベロベロに酔ったところなど見た記憶すらない。
(こんな人と一緒にいて息苦しくならないのだろうか?)
少なくとも、光俊にとっては、父、健一(けんいち)の存在は、首元を締め付けるネクタイのように窮屈な存在であった。
(…と、言う事は、親父にけしかけたのは、鈴江さんの方なのだろうか?)
小さいながら、会社社長である父の地位や財産を目当てに近寄ったとも考えられる。
なんといっても、鈴江はまだ24歳なのだ。
(いや、いくらなんでもそれは考えすぎか…。)
結婚の二週間前。
「光俊…お前の事を考えると、やはり母親は必要だなぁ…。」
この時、言われた言葉の意味が分からなかったが、翌日、父がセッティングした外食で、会ったのが鈴江である。
第一印象は非常に美しい女性だという事。
容姿もさることながら、彼女がほほ笑むと、並びの良い白い歯が覗くのだ。
絵に描いたような美人であった。
話によれば、二人は父親の友人を介して出会ったらしい。
その友人の経営する学習塾の講師をしていたのが、鈴江であった。
そう言われれば、確かに鈴江の振る舞いには、洗練された気品があるなと感じる。
いつも生徒たちの視線を受けていたからであろうか、家庭内でも背筋はピンと伸び、少し高めの声ではあるが落ち着いた物言いは“先生”を彷彿させるのだ。
そして、肩までかかる黒髪は艶やかで、凛とした空気をまとっていた。
「さぁ!頂きましょう!」
鈴江は最後にお盆に載せたお椀を卓に並べた。
「みんな揃ったな…。」そう言いながら父は掌を合わせ、「いただきます。」と、三人の声が重なった。
長方形の卓には、父と母が並び、それを対面する形で光俊が座る。
「なあ光俊、もうすぐ期末テストの結果が還ってくる頃じゃないか?」
父は息子に目を向けた。
食事の時、いつも交わされる日常の、学校であった事など、他愛無い話である。
光俊と仕事で忙しい父との接点はこの時間だけといっても過言ではないのだ。
「まだだよ。一週間経ってから返ってくるから…。次の授業じゃないかな?」
光俊は返事をしながら、テーブルの中央にある漬物を摘んだ。
その視線を上げた拍子に、何気なく鈴江を見ると、彼女は微笑ましそうに二人の会話を聞いているのだ。
おっとりとしたアーモンド型の瞳と光俊の視線がぶつかった。
「どう?美味しい?」
「はい…。」
ズキリ…!
俊充は胸から股間にかけて、熱くなった。
さらに、少し視線を下げると、セーターを張る、鈴江の胸の隆起があるのだ。
(やっぱり、大きいめだな…。)
男子校に通う光俊にとって、女性との接点は、鈴江しかない。
これが、父に近い年齢の女性なら、何の感情さえ湧かなかっただろう。
しかし、24歳の若く成熟した女体の存在は、まるで旬の果実が、目の前の手の届く距離に実っている状態と同じなのだ。
母親と呼ぶには年齢が近く、姉と感じるには親しい間柄ではない。
とどのつまり、“女”と感じざるを得ない関係ではないか。
(年齢的に考えても、親父はすでに枯れている可能性が高い。すると、鈴江は欲求をどのように欲求を処理しているのだろうか?)
そう考えると、エロ本を見ながら、食事をしている気さえしてくるのだ。
女性の裸の写真を見ながら“この人はどんなセックスをするのだろう?”と、想像するのに似ている。
食事を平らげると、光俊は自室に戻ろうと、席を立った。
その時だった。
「今年、高校2年生でしょ?今からでも勉強しておいた方が後々楽よ。」
鈴江の一言に光俊は苦笑した。
やはり、“教育者”だなと思う。
新婚間もないとあって気を使っているのだろうか。
「勉強しなさい!」などと命令調に言う事はないのだが、それとなく学習へと促すのだ。
「夕食ご馳走様でした。」
「はぁい!」
光俊は去り際、もう一度、鈴江の胸を見て、無意識に生唾を飲んだ。
彼女は食事へと視線を下ろしているから、気付いていないようであったが、新しい母親のその存在が、彼の最近の楽しみとなりつつあった。