〜わがまま小僧1〜

ごめんなさい!と、順平が言いそうになった時。
「もう!智実…ッ!子供相手になにやってんのよ!」
と、まるで自分の事のように、紗也が赤面したのだ。
急いで駆け寄ると、智実の着衣を整え、裸体を隠したのだ。
「ごめんね…!びっくりしたでしょう?」
傍らで動揺している順平に優しく声をかけながら、彼の下半身の乱れも直し始めたのだ。
机の上にあった手拭いで、愛液にまみれたペニスを一拭きすると、浴衣の前を閉じ、畳へ散乱する精液を拭いたのだった。
状況を見れば何がなされたのか、一目瞭然である。
が、紗也はその事には触れず、友人の失態を取り繕うかのようにテキパキと動いていた。
あるいは、性的な問題である。
女性として、恥じらいを覚える問題だけに口にするのも憚られるのかもしれない。
彼女は、そのまま手拭いをひっくり返すと、テーブルの上に散乱しているビールや焼酎の瓶を片し出した。
「僕らのいない間に…。ラッキーですね順平!」
あ然としていた二人の最初に口を開いたのは真であった。
「そうだ!ズルイぞ!」
それに被さるように、より大きな声を太一は発した。
「じ…自分だけいい思いしちゃって!なんなんだよ、なんなんだよォ!」
男と女の関係に知識を持つ太一は、遅れをとり悔しそうに地団駄を踏んむのだ。
智実の肌に触れられなかっただけでなく、紗也の手により瞬く間に着衣は戻された。
アソコを見る事すら適わなかった。
紗也が空き缶やビンを片付けている間も、大きな声で「ずるい!ずるい!」連呼するのだ。
見かねた紗也が、太一の前に中腰になり、手を彼の肩に置きながら目線の高さを合わせた。
「いい!?太一君、聞き分けて。」
それでも太一は肩をゆすり、「いやだ!いやだ!」と、不満そうな表情をぶつけてくるのだ。
「ごめんネ!智実は酔っ払ってて、順平君にちょっとだけ悪戯しちゃったんだよ…。」
残念そうな表情をし、諭そうとする様は、まるで学校か幼稚園の先生である。
それでも太一は「いいな〜いいな〜!悪戯いいなぁ。」と言い、聞き入れてくれそうもないのだ。
(ヤダなぁ…!もうこのまま3人を返した方がよさそうね…!)
紗也は内心、溜息をついた。
その時。
「順平が何したか、真の父ちゃんに言ってやるからな〜!」
と、太一が順平の方を睨んだのだ。
(ええッ!?ちょっと!)
自分が甘美に与れなかった腹いせから出た何気ない一言だったのだが、それに驚嘆したのは紗也であった。
子供相手に、ここで行われた事を保護者が知ると、嫌疑の目を向けられるのは自分たちではないか。
彼ら3人を部屋に誘った発端は智実と紗也にあり、酔っていたとはいえ、こちらがどんな態度で順平を誘ったのか、想像に難くない。
軽い悪戯心だったのだろうが、世間では犯罪にもなりかねないのだ。
紗也もその同類。
「そ…そんな事しちゃダメよ…。太一君。言っちゃダメ!」
紗也の表情は殊勝なものであった。
「何でさぁ!お姉ちゃんには関係ないじゃないかぁ!なぁ、真だってそう思うだろ!?」
「順平君も、悪気があったわけじゃ…ないんだし…。」
彼女の言葉は事態を収拾のためにぎこちない口吻であった。
自分の事だけで精一杯な太一に対し、彼女の違和感にいち早く気付いたのは真であった。
「もしかしてアレじゃないですかね?」
真が太一の顔を見て言うのだ。
「ここであった事が世間の大人にバレると、紗也さんたちが困ってしまうんじゃないでしょうか?」
真の論理は的をえたものであった。
紗也は胸の奥にヒンヤリとした剣が指し込まれた感覚を覚えた。
「…え?そうなの?」
真と太一が顔を見合わせている束の間、紗也は一つ大きく唾を飲み込んだ。
「言ってやるゥ!順平がなにしたか言ってやるんだ。ふふん!」
その言葉は紗也に向けられた。
「ちょっと…!そんな!」
「オレも順平と同じようにしたいんだぁ!!」
太一は力のこもった眼差しを紗也に向け、その下心は紗也の身体をねだっているに相違なかった。
「だ…だからッ!」
紗也はますます困窮する。
何が悲しくて小学生のペニスを相手しなければならないのか。
22歳のいい大人が子供に弄ばれたとあっては、笑い者である。
なにより女性としてのプライドもある。
紗也は必至に説得し、宥めようとするが、如何せん太一も紗也の立場の悪さを理解し始めているのだ。
簡単ではない。
(人の足元を見るなんて、憎々しいガキめぇ!)
こみ上げる感情をグッと飲み込み、「お願いだから言う事を聞いて。」と言葉を重ねる。
「こういった場合、何らかの交換条件がなければ取引は成立しないのではないでしょうか?」
真の弁である。
彼は冷静だった。
机の上にあるスナック菓子を口に入れながら、ジュースを飲んでいる。
その言葉に押されるように、紗也はいよいよ自分たちの窮地を認識させられた。
「だからぁ、順平と同じようにしてくれれば黙っているからぁ〜!!」
わめく太一の声が重く圧し掛かってくるような錯覚。
最悪、新聞沙汰にもなりかねないのだから。
(口外されては…万事休すだわ…。)
紗也は一度俯き、太一に視線を戻すと、次のように伝えた。
「ちょっとだけ、お姉ちゃんに時間をちょうだい!」
そう言うと、足早に洗面所の方へ駆けこんだのだ。


次のページ

                                                                     

     もくじ(7)