〜女医の矜持〜

ほとんど男で占められている、その患者たちはみな耳を澄まし、事を窺い、想像していた。
ここの美人女医の診察を知った者たちが、法悦を忘れられず、再度訪れるのだ。
もちろん、最初は精神疾患があった。
しかし、それとは別に生きる喜びを獲得した者たちと言ってもよい。
少年は腰を引き、また繰り出す。
肉棒がズッ、と引き抜かれ、また彩加の肉壺へ打ち込まれていく。
これが若い力なのだろうか。
少年が深く肉を根元まで埋めこもうとする度、彩加の子宮は押しあげられ、たまらずシートの上で、しなやかに背中をのけ反らせる。
「ああ…ッ…いいわッ…。…ぅうッ、は、はぁん…ッ!ぁ…ひぃ…んんッ!」
彩加は唇を震わせて喘いだ。
自分は医師なのだ。
そう立場を考える度、どんなに声を押し殺そうと努めた事だろう。
しかし、こればかりは、思うようにならない。
“二人で全てを共有するのだ。”
それが、精神科医倉持彩加の信念であった。
「…ひぃ…ふう…ッ!…ふぅ…ッ!」
少年の息も次第に荒くなる。
燃えるような熱が、ジーンと痺れる感覚に変わってゆくではないか。
そこからは、少年は坂を転がり落ちるようであった。
止まらない。
身体中が渇き、貪るように、彩加の中を泳いだ。
ああ、僕のオチンチンはどうなるのだろう。
言葉にできない、うずうず…むらむら…とした感触が湧きあがってくるのだ。
「ああッ、も、もう……ううッ!」
少年の額にはびっしりと汗の玉が並んでいた。
そして、せっぱつまった声と共に、小さくまとまった彼の尻に緊張が、ビクビクッと走った。
彩加に挿入したまま、少年はイッたのだ。
無垢なペニスが初めて至福を覚えた。
まるで壊れたエンジンのように、どぐぐぐ…ぐんッ!とペニスが、いや下半身中の筋肉が悶えるのだ。
最初、少年には何が起こったのかわからなかった。
しかし、射精を感じ取った彩加は、腰を浮かせつつ、ねじり、器用に秘穴からペニスを抜いたのだ。
タイミングは、絶妙であった。
ぬぢゅ…ッと、ねばる糸を引きながら隆々しく勃起した肉が、ぶるんッと大きく竿を振り、姿を見せたかと思うと、直後に、鈴口から白い噴火が起こった。
それは加減の利かない代物であるかのように、遠くに跳躍する時もあれば、涎のように出口から滴り落ちる場合もあり、織り交ぜつつ不規則であった。
野沢は自身の身体の反応が理解できないかのように、茫然としていた。
意思とは別の存在が肉体を操っているようであった。
「びっくりしたでしょう…。」
彩加は医師というよりも、まるで悪戯っ子のように屈託のない表情で笑った。
この少年だけではない。
男性は射精の瞬間、みな無垢な子供に戻るのだ。
社会でどんなに病んでいようが、疲弊しようが、童心を取り戻すのだ。
きっと大きなバッタやトンボを捕まえた時のように、自信を手にするのだろう。
「セックスって厳かな儀式だと思ってた?なぁんだ…もう終わりかって、思うでしょ…。」
彩加は、手拭いを取り、優しく少年のペニスを拭った後、別の一枚で自分の股間をふいた。
「先生…僕の彼女も、浮気相手とこういった行為をしたって事ですよね…。」
「もちろん…。でも、君は昨日出したウンチの形って覚えてる?」
セックスって、一種の排泄行為なのだろうか。
その後、彩加の口からは医師としての助言と思えるものは出てこなかった。
もちろん、この数分間が自分の人生の中で濃密な出来事であった事は事実。
17歳の、まだ未熟な少年にとって、恋愛の授業は難問ばかりである。
「もし、よろしければ、先生が輪姦されて、そこから精神科医を目指した経緯について窺ってもよろしいですか?」
「いいわ。服を着ながらお話しましょう。」
二人は揃ってベッドから床へ脚を下ろした。
「私は17歳だったわ。あの日、友人に誘われて花火を見にいった席で、クスリを嗅がされたの…。意識はそこから無くて、聞いた話では私自ら着衣を脱ぎ始めていたんだって…。それに欲情した男友達が裸になり、なんと私は彼の上に跨ってしまった。」
彩加は少年を見た。
「その時、私はまだ男性経験はなかったわ…。その男はまんまと倉持彩加の処女を奪ったのね…。そこから次々と男に姦され、4人と交わった。」
なんという事だろう。
しかし、少年の陰鬱な表情を照らすように彩加は微笑む。
「ショックで高校は中退し、家から出ない、出られない日々が続いたわ。でも、次第に芽生える自身の身体の変化に気付いたの。何もない砂漠のような場所だったから、小さな緑を認める事ができたように…。私の身体は疼いてた。処女の時は何も感じなかった身体は、開け放たれた窓から風が吹き込むようにはっきりとした変化を感じたの…。」
二人はカルテの乗った机の前にあるイスに座った。
「そして悟ったわ…。あの日処女だった私が男に跨ったのは、クスリの力ではなく、内側にひそむ自分の姿だったんじゃないかって。私は心の傷と肉体の解放の両方を手に入れたの。それが精神科を目指す小さな芽になった。」
少年は少し腑に落ちない表情をした。
「その…何て言うか…心に傷を持ったまま、お付き合いした男性との関係は大丈夫でしたか?」
すると、彩加は何がおかしいのか、ぷッと噴きだし、あはははは…と腹を抱え笑った。
「ううん…、付き合った人なんていないわ。」
彼女は言う。
「肉体関係を持ったのは、私を輪姦した4人。そして日々診療所へ来る患者さん達…。もう数えきれないけど…、でも私はみんな彼氏だと思っている。」
そこまで言うと彩加はイスをクルッと回し、机の方へ身体を向けた。
「困ったらいつでもいらっしゃい…。小鳥が羽休めになるような小枝だと思って…。」
最後に彩加は、少年に大きな祝福を与えるような笑顔を送った。
「でも!ただムラムラしたから受診しに来ただけじゃ、お帰り頂きます!ここは風俗じゃないの!それが、精神科医倉持彩加の矜持ですから…。」
少年は会釈をすると、さっきより軽くなった背中を見せ、カーテンの向こうへ消えていった。
彼は女の気高さを見た気がした。


完。

                                                                     

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