〜木曜日〜
放課後。
寿と木村と真鍋が連れ立ってA棟3階のの廊下にいた。
各クラスのホームルームが並ぶB棟とは違い。
A棟の3・4階は視聴覚室、理科室、音楽室等の特別教室がある。
寿はここで翌日の準備を終えていた。
この数日、リアの行動を徹底的に調べ上げ、その中から確実に狩れる方策を探し出していた。
そこから見えた獲物の行動パターンは3つ。
そこで、ポイントとなるのは、女子トイレだ。
男子校故に、女子トイレの設置場所は限られている。
職員室脇の職員専用トイレか、あるいは特別教室階の女子トイレの2つしか校内にはない。奇しくも、明日の5〜6時間目には3年2組の教室から視聴覚への移動というルートを辿る為、ここの女子トイレ使用は必至である。
「必ず、ここであの女を狩る。」
そして寿は、自身に念を押すように言った。
「それともう一つ、朝霧を抑える手も打っとかなきゃな。」
誰もいない廊下に3人の靴音が響く。
へらへらと笑いながら廊下を引き返した。
その時、寿は眼下にリアの姿を見つけた。
女は渡り廊下を歩いていた。
慌ただしそうに脇に幾つかの資料を抱え過ぎ去ってゆく。
「相変わらず立派な乳してやがる。」
寿はゴクリと生唾を飲み込んだ。
小さめのブラウスを押し上げる豊乳は、パンパンに張った生地を前面に突き出し、その丸みを帯びた頂きから放射状にシワが走っていた。
「明日はあの乳を鷲掴んでやるからな。」
男は胸を高鳴らせた。
〜金曜日〜
リアが実習生として海原高校に来て、5日目を迎える。
多忙の中にも充実と平穏を感じていた。
今日は約束の自主講義がある。
その資料を職員室の自分の机でまとめていた。
朝霧先生のコマに組み込まれているという事は6時間目の視聴覚室での講義になる。
自分なりに考え抜いたテーマは『思いやり』。
これから社会へ羽ばたく彼らに、自分自身と関わるすべての人達へ、心を向けてほしい。
社会の中におけるハート・トゥ・ハート=B
リアは教育者として切に望んでいる事だった。
講義の段取りに抜かりは無い。
後は、気持ちの整理だけなのだが…。
リアは手団扇で胸元を扇ぎ、手持ちのペットボトルの水を、グイッと飲んだ。
その日は緊張からか、朝から喉が乾いた。
水を飲む頻度が心なしか多い。
今日も暑い。
気温は朝から30度を超え、午後には35度を越すことが予想された。
実習生として一時間目から、他の先生方の授業を拝見させてもらったが、集中できない。
時間を重ねる度、緊張は否が応でも高まる。
4時間が終わり、その後の昼休憩は食事がいつもの半分も喉を通らなかった。
職員室での周りの雑談でさえ、耳に入らない。
午前中の内容を振り返ってもほとんど思い出せなかった。
自分の一言一句を生徒たちがどんな思いで受け止めてくれるか。
もしかしたら、真剣に聞いてくれないんじゃないか。
負の方に考え始めるときりがない。
瞼を閉じて自分に言い聞かす。
きっと上手くいく。
リアはえい!とばかりに気合いを込め、水と共に食事を胃に流し込んだ。
5時間目は3年2組の教室で、数学。
その後、6時間目。視聴覚室で講義である。
決戦に向け、リアは腹をくくった。
いつの間にか時計は午後の始業の5分前を指していた。
もう時間である。
「行かなきゃ。」
その言葉と共に職員室を出た。