明日から始まる講義の為、今日から数日間、教科書、教材の販売が行われる。
大学敷地内の丁度中央に座る、1号館の1階のピロティに売店が並ぶ。
学生は自身の取得したい単位に合わせ、各々、必要なものを買い揃えなければならないのだ。
その日は丁度初日という事もあり、尋常ではない混み具合だ。
タモツも両手の手提げ袋に教科書を詰め込んで、その楕円体型を人ごみに揉まれ右往左往していた。
「大学の教科書は分厚くて、みな重たいだ…。」
額から噴き出す汗も拭えない。
その時、目の前に春日井が人波をかく様にもがいている姿を見た。
「あの人も、オラと同じ(文学部)だっただな…。」
何かやたら粗暴に見えていたが、同じ釜の飯を食う仲間だと知れば、親近感が涌いてきた。
「今朝の事故の事は、半分はオラが悪いだ…。謝っておく方がええだか…。」
そう自身に言い聞かせ、春日井の方に近づいていった。
「チクショーっ!!退けよ!!」
後もう少しでカウンターに辿り着けそうな所で人波に押し戻される。
今、春日井がいる売り場が、日本文学の教科書を扱う売り場であり、この教科は必修単位の為、カウンターに求める人は相当数いる。
「だから、愚民と肩を並べるなんて、割に合わねぇんだよっ!!」
ムッとする集団の熱気に苛立ちを募らせていた。
その時、鼻腔の奥を優しく撫でる女性フェロモンに股間の一物が反応した。
「おっ…いいじゃねぇか!!無意識にその香りを辿ると、シックグレーに身を包む女がいた。
三井 陽菜である。
みなと同様、両手に一杯の手提げ袋を携え、ごった返す売り場に並んでいる。
人ごみに紛れて、キュートなお尻までは見えなかった。
春日井の視線が陽菜の身体に絡みつく。
陽菜の真後ろには都合の良い事に長身の女がいた。
女にしては珍しく、男の平均的な身長に匹敵する長身をしていた。
この状況はできる¥況だ。
春日井は確信した。
そして、陽菜に人一人分の間合いを取りながら、身を寄せると、混み合う人と人との隙間に手を差し込んだ。
(大丈夫!今までだって、バレタ事なんざ皆無だ。)
捻じ曲がった性根が鞘から抜かれ、陽菜に向けられた。
その手が、女の胸元に伸び、スーツの上から乳房を鷲掴んだ。
着痩せするタイプなのか、想像以上の大きめの果実がムンズリと男の掌の中で揺れた。
「きゃ――――――――っ!!」
周囲の雑音と混ざり合いながら、女の悲鳴が響き渡った。
陽菜が振り返った時には、胸元に伸びた手はどこかへ消えていた。
陽菜の横に並んだ人が彼女に不審な視線を投げていた。
後ろを振り向いても、女性の姿が陽菜を囲んで周囲に不審な輩は見受けられなかった。
怖くなる。
両手が塞がり、無防備だった胸を狙っての不埒に女は唇を噛んだ。
(一体、誰なんだろう…?)
春日井は陽菜の後ろに並ぶ女の陰に身を潜め、逃げ切っていた。
(死角があって、やりやすかったな!!)
行き交う人の流れに溶け込み、その場を離れようとした時、目の前にタモツが立ちはだかった。
「な…何してるだか…!?」
タモツが顔を見上げ、怒気をぶつけた。
「は!?何の事だよ!」
一重瞼が見下ろしながら、しらを切る。
「お…オラ、この目でしっかり見ていただど…。」
「何?こいつ…。わけわかんねーよ。」
無視して、その場を去ろうとした春日井の手首を、タモツがガッシリと掴んだ。
春日井の顔が僅かに強張った。
見た目の柔和さとは裏腹に剛直な正義漢にたじろぐ。
公衆の面前で痴漢犯が暴露されては、たまったものではない。
「お…おめぇ、三井さんのお…お…おっぱ…。」
タモツが口ごもりながら、言葉に突っかかる。
「何が言いたいんだよっ!!放せっ!!」
しかし、タモツは言葉を吐き出そうとする度、みるみる赤面してゆく。
その表情を見て春日井はジャガイモの純情に勘付いた。
(ははーん。こいつ、おっぱい≠ェ言葉にできねぇのか。)
「この田舎ヤロー!!童貞のくせに楯突いてんじゃねぇよ!!」
すると、タモツの右頬に春日井の手の甲が飛んできた。
バチィィィン!!!
慄いきタモツが怯んだ瞬間、春日井は手首を解き、ごった返す人ごみに消えていった。
「官能小説的な一言:痴漢は凌辱の一歩なり」