〜山岳部の送別会〜



「カンパーイ!」
カシャーン…。
20余のグラスが互いに歌った。
大学生活3年目を迎えたタモツは、サークルの先輩の送別会を開いていた。
「なんだか、悪いわ。私たち2人の為に。」
夏目リアと吉川弘子が申し訳なさそうに顔を見合わせる。
「いいえ…そんな事…。お世話になった先輩方に気持ちよく卒業さしてもらうのは後輩の務めですんで。」
時期は6月中旬、4年はサークルを去り、3年がこれからこのワンダーフォーゲル部(山岳部)を背負って立つのである。
部員20余りが二人の門出を祝福した。
「夏目先輩、卒業おめでとうございます。」
いち早く駆け寄ったのは、明(あきら)だった。
「ありがとう。俺、山岳部に入って人生変わりました。なんて言うか、みんなと力を合わせて一つの事に立ち向かう大切さを学んだ事は、俺の財産です。」
リアは頷いた。
「明君はしっかりして、気配りができる人間だから、これからもみんなの為に、縁の下で支えてあげてね。」
「はい。」
「夏目さんがいなくなるなんて、まだ実感ないですよ。」
そう、寂しそうな声色で話かけたのは光一だった。
そうだった。
「光一君はいつも、ムードメーカーだったなぁ。君が泣くと笑う人がいなくなるの。夏川は光一の頬を優しく小突いた。笑顔でみんなを照らしあげて。」
「俺、夏川先輩に想いを寄せて、山岳部に入りました。」
拓也だった。
「うふ、君はいつも、お調子者だったわ。」
夏川リア22歳。
父がフランス人に母が日本人のハーフである。
日本人の柔和な顔立ちに外人のシャープな造形があいまって、魅惑的な容姿の持ち主であった。
鼻筋はスッと通り、瞳はハリウッド女優ばりの、輝きと力強さを持っていた。
彼女のファンと言い張って、山岳部に入部してくる輩もいるほどであった。
しかし、大抵の者は長続きしないのであるが。
夏川の前を部員一人ひとりが送別の言葉と共に訪れる。
走馬灯の様に彼らとの思い出が過ぎ去ってゆく。
そういえば、大学一年時分に、夏目自ら部の創設を大学に届け出、この山岳部が発足したのだった。
今でこそ、部員20人以上の正式な部として存在しているが、その道のりは平坦なものではなかった。
幾度となく消滅の危機に直面したが、その度、彼女の持ち前のバイタリティで乗り切ってみせた。
夏目はウェーブしたロングヘアを、かきあげながら皆の笑顔を見渡す。
こうして、眺めていると、感慨も一塩である。
「始めは私達二人だったのよね。」
そう言って、弘子が隣に立っていた。
いつも、猪突猛進のリアの女房役を務めたのが彼女だった。
「今、私も同じ事考えてた。」
リアが弘子に笑ってみせた。
リアと弘子二人の間には、戦友と称しても過言ではない強い絆が結ばれていた。
部を卒業する最後の日、今までの足跡を数え、確かめる様に、ゆっくりと、そして静かに会の時間は過ぎていた。


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