タモツは大学2回生に進学した。
19歳を迎え、次第に交友関係も広くなっていた。
山岳部に所属し、勉強とサークル、そしてバイトと3足の草鞋を履いていた。
季節は夏の入り口に差し掛かる6月。
太陽の放射熱に煽られた風が肌を撫でてゆく。
「中津君、彼女いるだかぁ!?」
タモツは嬉しそうに親友の話に耳を傾ける。
中津太一(なかつ たいち)。
山岳部の同級生である。
学部は違えど、忌憚の無い付き合いができる数少ない友人であった。
その親友の相談事とあらば、力添えせずにはいかないだろう。
「ああ…。付き合って9ヵ月なんだけど、弱った事がある。」
太一は痩せた体格の為、懊悩し、背筋を丸めると、さらに頼りなくみえる。
身長でいえばタモツの方が10センチ近く低いのだが、肉付きの良い体が際立ち、大きく見える程だ。
午後の天気の良い日に構内のベンチに腰掛け男が二人並んでいた。
「俺にとっては人生初めての彼女なんだけどさぁ。付き合ってこの方、Hをさせてもらえないんだよなぁ。」
「せ…セックスの事だか?」
ポリポリと角刈り頭をかきながらタモツが肩をすぼめた。
「当たり前だろ!この童貞を遙香(はるか)ちゃんで捨てたい!この前も、自分の部屋に呼んでいい雰囲気作ったんだぜ。夜中の2時頃。ベッドの上に二人腰掛けて彼女に身を寄せ肩を抱き寄せた。そこでいつも通り、キスをした。」
「んだ…。」
「その後自然に、自然にだぞ…スカートに手を入れようとした瞬間、突っぱねられたわけよ。拒否られるこのパターン3度目。」
そこまで言い終わると中津は、溜め息をついた。
「彼女に聞いた事ないだか?」
「あるさ!」
太一は、タモツを向き言い切った。
「遙香曰わく、K教の家系だから、婚前交渉はNGだそうだ。正確にはそのK教の分家らしいが、掻い摘んで言えばそういう事だ。」
タモツは彼の一言一句に頷いた。
「鉄壁の女だなぁ。結婚まで貞操を守るだなんて。でも、彼女を愛しているなら、素顔を受け入れねば。」
話が一段落したと読んで、タモツは立ち上がろとした時、太一の手に掴まれた。
「いやいや、やっこさん!話の本題はこれからですから。」
「んだか?」
「でさぁ、それでも、大好きな遙香に誕生日が迫っているから。何を上げようかと思って。」「おらに聞かれても返答に困るだよ。おらもおめぇとおなじさ、童貞だ。ただ、こういったのは彼女の小さなサインから推測するしか無いんでねぇか?」
「なるほど!」
太一は頷いた。
「親友のタモツ君が言うならやってみるよ。」
「いや、おらをあてにされても困るだが。」
タモツは首を捻った。
13日の日曜日・11時にハチ公前で待ち合わせ。
太一は腕に目を落とし時間を確認する。
約束まであと、5分程であった。
「ごめんなさい。まった?」
待ちかねた声が背後から聞こえた。
2〜3メートル程を小走りに駆け寄り、松田遙香が表れた。
揺れたロングヘアーが光を含み黒とブラウンの中間色に煌めいた。
癒し系を彷彿させる柔和な、くっきりの二重の目元に思わず引き込まれそうになる。
「バイトがおしちゃって…。」
そう弁解しながら彼女も手首を返し時間を気にかけた。
「今、57分ね。よかった!間に合って!」
太一の視線もその仕草を追うと自然に遙香の胸元が視界に入る。
FカップはありそうなバストをTシャツが包む。
白を基調とした地に今、女性に大人気の子犬のキャラがプリントされている。
それが、シワの伸びた柔丘の上で張り出していた。
スカートはチェック柄のミニのプリーツ。
背中に小さなこげ茶のリュックを背負っていた。
腕や腿の肉付きから言えば、スレンダー体型である。
従って、尚更バストのボリュームが引き立っていた。
「お昼は何食べる?」
「うーん、そうねぇ。」
男はまたもや、並んで歩く恋人の胸を横目で一瞥する。
ゴクリ!
生唾をのんで込み、湧き上がる衝動を抑えた。
(オレはまだ、このおっぱいさえ、揉んだ事が無いのか。)
歩きながら彼女が太一の腕に手を組んできた。
カップルなら街の至る所で目にする自然な光景である。
「あっ、ここにしようよ。」
オープンテラスがメイン通りに面したお洒落なイタリアンであった。
店に入り、テラスを注文する。
ペア席に着き、メニューを広げた。
「ねぇ、遙香ちゃんはバイトって何のバイトしてるの?」
太一の真剣な眼差しをはぐらかす様に遙香は笑って見せた。
「アハハ…何?いきなり!それ前も聞いたでしょ?これで5回目。秘密!ダメよ。」
付き合って9ヵ月も経つのに、太一はバイトの内容さえ教えてもらった事がない。
いや、聞けばなんでも答えてくれる彼女だが、バイトだけは、知らせてはもらえなかった。
「いいか加減ヒントくらい、くれたっていいだろ!?」
バンと音をたて、太一は反射的に机を叩いてしまった。
すこし、キレ気味にふてくされた太一に遙香がたじろいだ。
「ちょっと、そんなに怒らなくてもいいじゃない。ヒントくらいならいいか…。そうねぇ、ヒントは女優さん…かな?」
お店前のメイン通りには休日のせいもあって、相当数の人が行き交っていた。
その中に春日井の姿があった。
たまたま、買い物にきたその帰りしで意外な発見に驚いた。
(おや…?)
その時、春日井の慧眼が光った。
(テラスに座っているのは、タモツのツレと…あの娘…。)
男は怪訝な表情をした。
南中の太陽の陽が暖かく降り注いでいた。