〜ふたり〜



桜の花弁が散る遊歩道が緩やかな勾配をなし、新入生を迎えていた。
このピンクに染まる坂道を登りきった所に桜崎大学構内へと続く入り門がある。

4月6日(月)
新たな門出を迎えた若人が、この桜崎大学へと胸を高鳴らせ、歩みを重ねた。
タモツは某県のド田舎から進学の為、上京してきた。
お洒落気のない角刈りにジャガイモスマイルが、桜木のトンネルを見上げた。
「都会にも綺麗な花が咲くだなぁ…。」
短足の楕円体型が人よりも少しばかり、ゆっくりとしたスピードで歩いている。
自身を追い抜いてゆく人を見る度にこう思った。
(東京の人はなぜ、こんなに急いでいるだか…?)
まず、田舎地では目にする事もない、人ごみに圧倒された。
通学集団に揉まれ、額の季節はずれの汗を拭った。

      プロフィール:三船タモツ(みふね たもつ) 18歳
            佐賀県出身  彼女暦なし  未だ童貞


真紅のボディが風を裂き、カーブを捌く。小高い丘陵に沿うアスファルトを駆け、直進すると大学敷地内の駐車場に滑り込んだ。
フェラーリのガルウィングから降り立った男はポール・スミスのスーツに身を包み、ネクタイを首に巻きながら上着を羽織った。
学生の入学式には、似つかわしくないブランドを飾り、入学式の為講堂へと向かう。
ど真ん中、五分分けの天然パーマが春風になびく。
細めで一重の重たそうな瞼に、重量感に富む大きな団子っ鼻のその男は大あくびをし、気怠そうに新入生の流れに合流していった。

      プロフィール:春日井 剛(かすがい たけし) 18歳 
         東京都出身  父親が有名な春日井グループの総帥である

(ちっ!!こんなダサ男と、一緒に肩を並べるのかよっ!!)
入り門に続く坂道。
男の目の前を角刈り頭の楕円体型がよたよたと歩いている様に苛立ちが募る。
春日井は望んでこの大学に来たわけではなかった。
ちょうど、半年前、高校時分に非行が表沙汰になり、退学を余儀なくされた経緯がある。
父親の力で事件をもみ消して、この大学まで逃げてきたのだ。
あれは思い出しただけでも、腹が立つ。
合コンと称し、行きつけのカラオケ屋で目当ての女子を姦すのが、快感で窮屈な高校生活の息抜きであった。
連続強姦99件。
あと一人で、100人目の大台突破目前でそれは警察に通報され、事件が明るみに出た。
(そういえば、通報した店員(バカ)もこいつの様なデブチビだったな…。)
人違いと知りつつも、ここで似たような人物に会った事が偶然以上の何かを孕んでいるように思えてならなかった。
ガツン!!
鈍く大きな音が鳴り響いた。
タモツが急に立ち止まった為、真後ろを歩いていた春日井とぶつかってしまった。
タモツの後頭部に春日井の顔面がめり込んだ。
「はぐっ…痛ぇっ!!」
春日井が顔を抑えて立ち止まる。
後方からの衝撃に驚き、慌てふためき、タモツは背後の男を気遣った。
「だ…大丈夫だか?おら…気づかねぇで…おめぇも、もっとしっかり前さ見て歩くだよ…。」
タモツの不安げな視線と春日井の狂気じみた視線が交差した瞬間、タモツの右頬に春日井の手の甲が打ち付けられた。
「いっ!!!」
突然の衝撃にタモツが慄き、身を引いた。
「な…何するだか…!?」
「やっぱりよぉ…俺はこんなチビデブと相性が最悪なんだよ…。」
衆人環視の中、半ば騒然とした辺りの空気を振り払いながら春日井は足早にその場を去った。


新入生953人。
7学部20学科が講堂に集う。
9時開式。
入学式は学長のスピーチから幕を開けた。
タモツの専攻、文学部のクラスは前から数え、8列目にならんでいた。
出席番号は、名前の頭文字(あ)から順に並んでいる。
皮肉にも同じ列に春日井の姿があった。
同じ学科であったのだ。
みな緊張した面持ちで歓迎の挨拶を拝聴していた。
講堂一面、人の頭が埋め尽くす中、一つポカリと空いている席がある。
タモツの座る真横の席だった。
誰かが、独り言の様に呟いた。
「入学式から遅刻するヤツがいるのかよ!!」

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官能小説的な一言:名器との出会い。是至高なり」